私は先日、三谷幸喜さんが監督と脚本を手がけた『short cut』という作品を見ました。これは2011年にWOWOWで放送されたテレビドラマなんですが、映画みたいに質の高い作品です。結婚10年で冷え切った夫婦が、山道で迷いながらひたすら口喧嘩をするという、なんとも三谷さんらしい設定。でも、これがすごく面白くて、私も見入ってしまいました。

基本情報

『三谷幸喜「short cut」』は、2011年11月3日にWOWOWの開局20周年記念番組として放送されました。三谷幸喜さんがテレビドラマで初めて監督を務めた作品としても知られています。最大の特徴は、なんと一度もカメラを止めずに、最初から最後までワンシーン・ワンカットで撮影されていること。夫役を中井貴一さん、妻役を鈴木京香さんが演じています。妻の祖父の葬儀の帰り道、車が故障して山道に迷い込んだ夫婦が、お互いを罵り合いながらも、徐々に気持ちに変化が訪れる様子を描いたホームドラマです。ロケ地は長野県の自然豊かな場所で行われました。

いきなり森へ!喧嘩から始まる夫婦のリアル

この作品の始まり方には、思わず「おや?」と声を上げてしまいました。いきなり夫婦二人が罵り合いながら森の中に入っていくんですから。普通のドラマなら、もっと関係性の説明があるものですが、この作品は一切なし。でも、それが逆に、長年連れ添った夫婦のリアルさを感じさせましたね。罵詈雑言の応酬なのに、どこか会話のキャッチボールが成立していて、中井貴一さん演じる夫が、口では文句を言いながらも、どこかその喧嘩のやり取り自体を楽しんでいるように見えるんです。ただ憎み合っているわけではない、不思議な関係性が伝わってきました。

極限の環境が暴き出す夫婦の「知らなかった」一面

山奥という、携帯も通じない「極限の環境」に放り込まれた夫婦は、普段の「仕事人間」としての鎧を剥がされていきます。お互い仕事に忙しくて、きっと深いところまでは知らなかったんでしょうね。そんな彼らが、逃げ場のない山の中で、不平不満を言い合いながらも、徐々に本音をぶつけ合うことになるんです。田舎育ちで自然に適応できる鈴木京香さんと、都会育ちで不平をこぼす中井貴一さんの対比も面白い。この山での「ショートカット」は、単なる近道ではなく、普段なら何十年もかかっても気づかなかったかもしれないお互いの素の姿、そして夫の不倫という過去の事実までもが、否応なく二人の前に突きつけられ、改めて知っていくきっかけになるんです。夫は妻に惚れ直しているように見えましたが、妻の側はそうではなかった。この夫婦間の認識のズレも、作品の大きな見どころだと感じました。

密室じゃないのに密室劇?三谷監督の遊び心と役者の地力

この作品は屋外の山中が舞台なのに、夫婦二人の会話だけで物語が進む様子は、まるで舞台の密室劇を見ているようでした。ワンシーン・ワンカットという撮影方法も、役者さんたちの地力が試されるものですが、中井貴一さんと鈴木京香さんの演技は本当に素晴らしかったです。舞台の長時間公演をそのままカメラで追いかけているようで、その臨場感に引き込まれました。

そんな二人の世界に、中盤でまさかの梶原善さんが割り込んでくるのも、三谷幸喜作品らしいスパイスですよね。彼の登場で、それまでの緊迫した夫婦の会話に、また違う空気が入ってくるのが面白いんです。彼の持つ独特のユーモアが、夫婦のピリピリした空気を和ませるだけでなく、物語をさらに複雑に、そして面白くしていました。特に、彼のくすぶる思いを鈴木京香さんがバッサリ切り捨てるシーンは、京香さんの男前な一面が出ていて、見ていてスカッとしましたね。

そして、エンドロールで「鳴き真似指導」として江戸家猫八さんと江戸家小猫さんの名前があったのは、本当に驚きでした。音楽に頼らず、自然の音を大切にするこの作品で、まさか専門家が指導に入っていたとは。これは、三谷監督の細部へのこだわりと、私たち観客への気の利いたジョークだったんだな、と感じました。

この作品、ただのコメディではなく、夫婦関係のリアルや、人間の本質を突き詰めるような、深い魅力があると思います。皆さんのご意見はコメント欄にぜひ!この映画について、感じたこと、考えたこと、なんでも教えてください。

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