YouTubeを開くと、はっきりとした口調で減税を訴える一人の女性がいます。東京都議会議員の佐藤さおり。公認会計士として培った専門知識を活かし、今の政治やメディアのやり方に対して、堂々と意見を述べています。彼女の活動を見て「これこそ新しい政治だ」と感じる人もいれば、「ちょっと心配」と思う人もいるでしょう。この記事では、彼女を応援したり批判したりするのではなく、彼女が「何と戦っているのか」を整理して、これからの政治について一緒に考えてみたいと思います。
フィルターなき発信がつなぐ距離
これまで、政治家の発言は新聞やテレビを通じて私たちに伝わってきました。それが普通でした。でも佐藤氏は、その「普通」を変えました。彼女が主に活動するのはYouTubeやX(旧Twitter)です。
例えば、2024年12月のYouTube動画「東京都民の皆さんへ」では、カメラに向かって直接「消費税は廃止できる。財務省に騙されてはいけない」と語りかけました。編集されていない彼女本人の言葉が、そのままの熱量で支持者に届きます。
この方法は、従来のメディアが作ってきた「政治家と一般市民の距離」を一気に縮めました。永田町の決まりごとや、メディアの思惑といったフィルターを通さずに、自分の政策や考えを直接伝える。政治に関心がなかった人たちや、今までの報道に疑問を感じていた人たちの心を動かしているのは確かです。
ただし、この直接的なコミュニケーションには注意も必要です。編集されない分、誤解を招く発言や、感情的な表現も同時に広がりやすくなります。支持者と批判者の間で分断が深まるリスクもあることは、冷静に見ておく必要があるでしょう。
「借金1000兆円」という常識への疑問
「国の借金は1000兆円を超えて、もうお金がない状態です」。私たちは、ずっとそう聞かされてきました。でも佐藤氏は、公認会計士としての知識から、その「常識」に真っ向から異議を唱えます。
彼女のX投稿(2024年11月)では「国の借金という言葉自体がプロパガンダ。正しくは政府の負債であり、それに対応する国民の資産がある」と明言しています。会計の専門家として、バランスシート(貸借対照表)の視点から財政を見直せと訴えているのです。
彼女が主張する「もっとお金を使う政策」や「消費税を下げる」という提案は、この国のお金に関する最大のタブーへの挑戦と言えます。お金がないからと言って節約ばかりしていることが、かえって国民生活を苦しくしていると訴え、「国の借金」ではなく「国民の家計」を大切にしろと迫ります。
この分かりやすさと力強さが、彼女の政策の大きな魅力です。ただし、財政政策は複雑で、専門家の間でも意見が分かれる分野でもあります。彼女の主張が完全に正しいかどうかは、今後の検証が必要でしょう。
境界線を越える都議の「志」
彼女の人生は、いわゆる政治家一家の出身やエリートコースとは全く違います。自著「会計士が見た日本の未来」でも語っているように、苦しい家庭環境で育ち、自分の努力で公認会計士の資格を取り、会社を経営するまでになりました。この経験が、「恵まれない立場の人」の代表として、既得権益や古い慣習と戦う彼女の姿と重なります。
そして、彼女は「都議」という立場でありながら、平然と国の防衛や食料問題について語ります。2024年10月のYouTube動画では「食料自給率37%では国を守れない。都議だって国政を語る責任がある」と明言しています。本来の担当範囲を超えているかもしれません。
でも、彼女の支持者にとっては、それこそが「本気度」の表れなのです。「都の問題の根本原因は、国のやり方にある」という彼女の信念が、役割分担の壁を乗り越えさせています。
一方で、都議としての本来の職務への集中を求める声もあります。有権者から見れば「まずは都政をしっかりやってほしい」という期待もあるのは当然でしょう。
始まったばかりの実験
佐藤さおりの挑戦は、まだ始まったばかりです。彼女のやり方が、今後どんな結果を生むのかは誰にも分かりません。SNSでの直接発信は新しい政治参加の形を生むかもしれませんし、逆に議論の質を下げる危険性もあります。
でも、彼女の存在が、多くの人に「そもそも、政治って何だろう?」「税金の使い道は、誰が決めているんだろう?」と、当たり前だと思っていたことを疑うきっかけを与えたのは確かです。
彼女を信じるか、信じないか。その前に、私たちは彼女が投げかけている「問題提起」そのものに、もっと真剣に向き合うべきなのかもしれません。賛成する人も、心配する人も、一度立ち止まって考えてみる。それが、彼女の挑戦が私たちに求めていることなのかもしれません。